地方空港はなぜ失敗したのか

日本には99の空港がありますが、その殆どは地方空港で赤字状態です。共同通信の記事によると、「地方自治体が管理する58空港のうち約9割に当たる53空港が2007年度、着陸料などの収入では空港の管理運営に必要な費用を賄えない赤字」(2009/03/28)だそうです*1。国が管理する空港でも稚内空港など赤字空港がいくつかあります。


この記事は特定の空港がどれほど赤字なのかといった、地方空港叩きを目的としたものではありません。私は、日本各地に空港を作って東京との距離を縮めるという政策は正しいと考えています。日本は東西南北に広いですし、東京や大阪の大都市への集中が著しいので、空港を作って地方と大都市のアクセスを容易にすること自体はとても正しい公共事業です。主要な空港だけを整備しそれ以外はすべて陸路で結ぶというのは国家のアクセスインフラとしては脆弱に過ぎます。地方空港が赤字だという点は確かにひとつの問題ではありますが、その地方空港が必要な空港か否かという点にはさほど影響を与えないのです。


ほとんどの地方空港は社会インフラとして必要ですから、本当に考えなければいけないことは、これほどまでにたくさんの空港が赤字になった原因です。地方空港が赤字なのは、地方空港に対する需要がないからです*2
需要がない原因はとても単純です。空港の周囲に人口が少ないからです。例えば稚内空港は車で2時間以内で利用可能な人は7万人もいません。周辺人口が少なければそこに空港を作っても需要は極めて少なく赤字になることは誰の目にも明らかです。


では、地方に空港は必要ないのかと言えばそんなことはありません。地方空港は地方に住んでいる人のためにだけあるのではありません。地方に空港がなければ、都会の人も地方に行くためにとてつもない時間と労力が必要になるということです。仕事で利用している人にとって、地方空港の廃止は大打撃になる場合があります。ほとんどの地方空港は社会インフラであって赤字であろうがなかろうが必要な空港です*3


地方空港は必要な社会インフラのですが、地方空港のほとんどが赤字という状態は決して健全とは言えません。地方空港をできるだけ赤字にしない方法を考えなければいけません。
空港は空港使用料で成り立っています。この空港使用料は飛行機の発着に応じて支払われます。そのため、空港を維持するコストを支払える程度の飛行機の発着、つまり空港に対する需要があれば地方空港は黒字になります。地方空港の経営を健全なものとするには需要を増やすことが求められます。では、どうすれば需要が増えるのでしょうか。


まず、もっとも重要なのは地方空港の周辺人口を増加させることです。空港周辺に一定の人口規模があれば、その地域と東京や大阪などの大都市圏との間で取引が生まれ、飛行機で移動する人が増えます。周辺人口が数万人規模では空港を維持できるだけの需要は見込めません。地方空港周辺の人口を増加させる必要があります*4


周辺人口を増加させるにはどうしたら良いでしょうか。それにはいろいろな方法がありますが、まず第一に、国や都道府県が率先して出先機関や本部を地方に設置することです。民間企業の営業所は、通常、国の出先機関があるところに置かれますので、出先機関が撤退すると企業の営業所も撤退します。出先機関の有無が地方都市の人口に与える影響は極めて大きいです。
国や都道府県が出先機関を設置するコストはそんなに大きなものではありません。むしろ、バラバラにあることで仕事上の移動が生まれるため、空港への需要が生まれますし、周辺人口が増加するのでその分の需要増加も見込めます。
日本は、国や都道府県の機関を大都市に集中させて地方空港の周辺人口を減少させてしまいました。これが地方空港の需要減少につながっているのです。国や都道府県の機関は、地方空港のある都市ごとに細かく設置すべきです。そうでなければ地方都市の人口はどんどん減少していくでしょう。国は地方空港のある都市をある程度の規模に発展させるという意思を示すべきなのです。


さらに、少し大きな話ではありますが、地方空港の周辺人口を増加させるために、国家機関や国営施設を地方に作ることも検討すべきです。たとえば、皇居は京都へ、最高裁判所は大阪へ、宇宙航空研究開発機構は本部機能ごと南九州へ、防衛省は新潟へ、東京大学は東北へ、国会と官邸は北海道へ移動するなど、国家規模で機関,施設を拡散することを本気で考えるべきです。国土交通省農林水産省を47に分割し、各県にそれぞれ置くのも良いでしょう。あらゆるものが東京に集中していることが東京への一極集中を引き起こし、地方都市の人口減少につながっています。そして、地方都市の人口減少が均衡の採れた国土開発を阻害しています。国の機関や施設を地方に拡散すれば、地方と東京への移動が増えますし、地方都市の人口も増加しますので、地方空港の経営が安定するはずです。


次に、航空運賃を値下げすることを検討すべきです。地方空港発着の航空運賃は非常に高額です。車で2〜3時間走って近くの大きな空港(例えば新千歳空港福岡空港など)へ行った方がガソリン代を計算しても圧倒的に安いのです。これでは、地方空港を積極的に使う人は増えません。
地方路線の航空運賃が下がらないのは競争が存在しないからです。そこで、競争のない地方路線は、近隣の格安航空会社が参入して競争状態にある路線と比較して遜色ない程度の運賃になるように法律で強制すべきです。採算が合わない場合は、当面の間補助金等で補うべきです。そうすれば、近くの大きな空港から乗るよりも地方空港から乗った方が安くなります。


まとめると、地方空港は需要が少ないから失敗したのです。ですから、需要を増やすために地方都市の人口を増やすべきなのす。
世界を見渡しても、日本ほど一極集中が進んだ国はほとんどありません*5。これは、日本の中央集権体制に大きな原因があるのですが、日本が戦略的に国土開発をしてこなかったということです。もっと地方都市をそれぞれ健全に成長させていれば、地方空港の問題がこれほど大きくなることはなかったのです。


地方空港は需要がないから失敗したのですが、かといって地方空港を作ったことは政策的に間違いだということではありません。国土へのアクセスということを考えると社会インフラとしての地方空港は必要です。赤字だから廃止するという簡単な話ではありません。
地方空港が健全に運営できる程度の需要を作れなかったこと、つまり地方都市を成長させられなかったことが失敗の根本的な原因です。地方都市を再生し人口を増加させるしか根本的な解決方法はありません。
そして、これは地方空港の問題だけにとどまらず、医療過疎や教育格差などの大都市と地方都市の間に存在する格差を解消する上でも必要なことなのです。

*1:なお、民生用の空港には、大きく分けて4種類あります。会社が管理する空港(成田、中部、関西)、国が管理する空港(新千歳、稚内、釧路、函館、仙台、羽田、新潟、伊丹、八尾、広島、高松、松山、高知、福岡、北九州、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、那覇)、特定地方管理空港旭川、帯広、秋田、山形、山口宇部)、地方管理空港地方自治体が管理する空港で現在54)です。

*2:マスコミなどでは需要予測の誤りが批判されていますが、需要予測の誤りは建設するか否かの判断にある程度影響を与えたかもしれませんが、赤字の原因ではありません。

*3:もちろん不要な地方空港もあるでしょう。大阪周辺に3つも空港は必要ありませんし、静岡空港茨城空港が必要かという点にも疑問が残ります。島根県に2つも空港が必要だとも思えません。しかし、地方空港が必要だという話と個別の地方空港が必要か否かという判断とはまた別の話です。

*4:周辺人口が少ないなら空港を作るべきではないという批判もあるでしょう。しかし、国土へのアクセス可能性、社会インフラという観点からすると、空港を作らず放置しておくべきではありません。消極的な選択をしていては国土開発は全く進みません。むしろ、少なくとも空港周辺に空港が黒字になる程度の需要が生まれる規模の都市を開発するように努力すべきです。

*5:シンガポールや香港の一極集中も有名ですが、いずれも都市国家です。