日本を「吹けば飛ぶような国」にしたがる人たち

昨日のエントリーは法人税率を下げたい人たちの気分を害してしまったようです。別に私は今すぐ法人税率を上げろと言っている訳ではないんですけどね。むしろ私は増税には全面的に反対です。


念のため私のスタンスを示しておきますが、私はまず先に政府支出を3割程度削減して自助努力でプライマリーバランスを均衡させるべきだと考えています。それまではあらゆる増税には反対です。プライマリーバランスが均衡していないのに増税しても国民の意思を反映しない官僚組織がさらに肥大化するだけで何の意味もありません。


というかですね、日本が嫌なら海外に逃げられるお金持ちの皆さんはさっさと海外に行ってしまえばいいのです。いちいち出ていく国の政策に口をはさむ必要はないでしょう。だた、日本で稼ぐなら日本に税金を払ってください。租税回避や脱税をするならそれなりの覚悟をしてください。私が思うのはそれだけです。
私自身は自分の精神が日本という国家から逃れられるとは思いませんし、海外で長期間生活するのは嫌なので日本に残っているのです。日本に残ってこの国を少しでも良い国にするために微力ながら努力しようと思うだけです。
現在の日本は国民が国に忠誠を誓うことを強制されるようなおかしな国ではありません。出国も国籍離脱も自由な国に生きているのですから自由に出ていけば良いのだと思います。税率を下げなければ出て行くぞ、なんて脅しめいたことを言わずにさっさと出て行けばいいのです。


海外に出ても行かずに日本の法人税率を香港やシンガポール並みに下げろと主張される人たちは、おそらく日本を香港やシンガポールのような国にしたいのでしょう。しかし、国土が広い日本では香港やシンガポールのような税率を実現することは絶対にできません。国土が広ければそれを維持するために費用が必要(例えば道路の長さを比べると良く分かります)ですし、防衛費も比べ物にならないくらい高額になります。島ひとつが国家という国と日本を比べること自体が大間違いなのです。法人税を下げろ、シンガポールや香港並みにしろと主張している方々はその辺りをまったく理解していない(もしくは意図的に無視している)のです。


シンガポールや香港のような小国(いわゆるタックスヘイブン)は、いわゆる逆転的発想で繁栄しているのですが、忘れてはいけない部分が3つあります。
まず第一に、これらの国々は軍事的独立性が極めて低いことです。タックスヘイブンは通常、軍事的にどこかの国に依存しています。例えば香港は中国に依存していますし、シンガポールは事実上アメリカに依存しています。こういった国はもし有事が起きた場合には国歌として独立を維持することができないかもしれません。
次に、こういった国は軍事的独立性が低いために政治システムが安定していないという点を忘れてはいけません。例えば、香港と中国の関係がいつまで現状を維持できるのかは誰にもわかりません。中国政府が何らかの形で介入してくることも想定されます。シンガポール独裁国家だということを忘れていはいけません。いずれの国も、ある日突然、政治的に極めて不安定になるリスクを抱えている国なのです。
最後に、アメリカは近年、タックスヘイブンに対して強い態度で臨むようになっています。タックスヘイブンのリストを公開し中でも悪質な国に対して名指しで非難しています。タックスヘイブンはもともと軍事的に独立していませんから、アメリカの軍事力を背景にした圧力に抗しきれるものではありません。
タックスヘイブンとして繁栄している国家は、国家の存立自体が極めて不安定な状態にあるのです。わかりやすく言えば「吹けば飛ぶような国」なのです。


そういったタックスヘイブンのような国が表面的にうまくいっているように見えるからといって、日本もそれを真似ろと言われても、そんな話は実現不可能なのです。日本は国土が広いですし、日本国民はおそらく国防を放棄しません。日本国民の間で「吹けば飛ぶような国」にするというコンセンサスは絶対に得られません。例えば対馬とか石垣島あたりが日本国から独立して日本語+英語ベースのタックスヘイブンになるというのなら話はわかります。実現可能なのはその程度の話であって、日本全体をタックスヘイブンにするなど不可能なのです。不可能なことを主張するのはあまりにも無責任です。


日本も法人税引き下げ競争に乗り遅れるなと主張する人たちは、国家経営のことなどまったくわかっていません。自分の財布の中身にしか興味がないのでしょう。日本を「吹けば飛ぶような国」にしようとしています。


今日はあまり時間もないので中途半端なエントリーですが、近いうちに、タックスヘイブンの話を少しまとめてみようかと思います。