日本を救えるのは法人税である

※タイトルを変更し、本文も少し修正しました。論旨に大きな変更はありません。


近年、日本の税収が減少しています。財務省の発表によると、1992年(平成4年)から2007年(平成19年)まで安定して50兆円前後あった税収が、2008年(平成20年)には44兆円に減少し、2009年(平成21年)には37兆円まで減少しています。2008年秋のリーマンショックに端を発した100年に一度といわれる景気後退から3年で13兆円減少したことになります。

この原因は、主に法人税の減少です。平成19年には14.7兆円だった法人税収入が平成20年には10兆円、平成21年には5.2兆円にまで減少していますので、3年間でおよそ9.5兆円減少したことになります。

同じ3年間で、所得税が3.3兆円の減少、消費税が0.9兆円の減少ですので、法人税の減少が極めて大きいことが理解できると思います。


日本においては、100年に一度といわれる経済危機にあっても、所得税の減少幅はわずかであり*1、また消費には影響がほとんどありませんでした*2。これは、世界的な不況が日本国内の個人の収入と消費には大きな影響がなかったことを示しています。
他方、法人税の減少は自動車産業や家電産業といった輸出産業の不振が主たる原因であって国内市場が大きく縮小したわけではありません*3。全体的に見れば日本国内の経済はリーマンショックに始まる世界不況の影響をほとんど受けていないのです*4


本当の問題は、今後に起きることが予測される所得税と消費税の減少です。まず、今後10年で団塊の世代が大量に定年で退職します。平成20年に55歳から64歳までの人口は約1880万人、10歳から19歳までの人口が約1215万人なので、労働可能な人口(20歳から65歳までの人口)が665万人減少します。20年後にはさらに減少し、労働可能な人口は1100万人減少すると思われます。

このような単純な労働人口の減少に加え、日本の年功序列賃金の下では定年退職する人の給与水準は新入社員の給与水準の3倍程度になっているので、所得税の減少も非常に大きなものになると予測されます。
さらに消費税も減少することが予想されます。というのも、高齢者は生きていく上で必要な物はおおよそ既に購入しており、身体の衰えもあって、消費といえばほとんど食べるものと医療費(ほぼ非課税)、介護費(ほぼ非課税)、葬儀費用(ほぼ非課税)、墓(墓石以外はほぼ非課税)程度になります。ほとんどの老人は消費に貢献していないのです。
他方、新たに働き始める世代や、子供を育てている世代は消費に貢献しますが、それでも人口が減少する社会にあっては、家を相続するまたは親と同居することが一般的になるので、新しい家を建てるといった大きな消費はほとんど起きなくなります。
消費税も良くて横ばい、おそらくは緩やかに減少します。


つまり、法人税はその多くを輸出産業が支払っており、消費税は日本国内の消費に依存しており、所得税はその中間*5です。そのため、労働人口が減少し高齢者が増えれば、所得税と消費税の減少は避けられません。逆に増える可能性があるのは輸出産業が支払う法人税です。
日本は国際競争力を失ったと考えられる傾向がありますが、それは間違いです。確かに世界不況が原因で2008年(平成20年)下半期と2009年(平成21年)上半期の1年間は貿易赤字に陥りましたが、それもほんのわずかな赤字にすぎません。2009年下半期には既に黒字化しており2001年(平成13年)の水準まで回復しているのです。未だ、日本の国際競争力は衰えていません。
それよりも、今後、さらに伸びが期待できるのが輸出産業です。というのも、中国の経済成長はあと10年は確実に続きますし、インドや東南アジア諸国、ブラジルの経済発展も期待されています。これらの国々が経済成長をして日本製品を買うようになれば、さらなる貿易黒字が期待できます。そして、日本に太刀打ちできるほど高品質な製品を安価につくる能力を持っている民族は他にありません。
日はまた昇ります。日本の輸出産業はこれから間違いなく大きく成長します。法人税も数年で15兆円規模に回復するでしょうし、20兆円程度まで増加が見込めるかもしれません。日本の財政を救う可能性があるのは法人税なのです。


しかし、長期的に見て所得税や消費税が減少するのでトータルでは税収は減少するでしょう。そのため、政府規模の縮小が不可欠です。政府の規模は、現役世代で支えられる規模の政府にしなければなりません。プライマリーバランスの均衡が必要というのは、この文脈で考えるべきことなのです。現役世代が減るのに歳出を増やすことなど不可能です。社会福祉は現役世代が負担可能な水準が限界なのです。
仮に増税が必要となるとすれば、それは国債の償還(借金の返済)のためでなければいけません。国債償還の選択肢はインフレか増税か、その両方か、ということになりますが、増税(特に消費税の増税)で返済すとなると若者にとって極めて不公平な話ですし、ますます国内の消費が冷え込むでしょう。


平成20年、21年の税収減少は金融不安を端に発した不況が原因ですから短期的に回復しますが、今後起きる税収減少の原因は労働人口(=消費人口)の減少ですから短期的に回復することはありません。既に生まれている世代の人数を後から調整することは(移民を募集する以外には)不可能ですから、少なくとも20年以上継続することはほぼ確実です*6
労働人口の減少に応じて身の丈に合った政府にしなければ、日本の財政は本当に破綻することは間違いありません。日本政府は身の丈に合った規模に縮小できるのか、踏ん張りどころだと思います。

*1:所得税の減少の主な部分は企業からうけとる配当の減少です。

*2:このことは配当所得の減少が国内消費にほとんど影響を与えないことを実証したと言えます。

*3:その証拠に消費税の額はさほど落ち込んでいません。

*4:派遣労働者が大量に失業しています。しかし彼らは元々低所得者であり失業しても雇用保険生活保護の受給を受けるため消費に与える影響も小さいのです。もちろん失業対策は重要ですが、税制の議論とは別の話です。

*5:給与は日本国内の消費の影響が大きいですが、配当は輸出産業の影響が大きいです。

*6:日本という社会は日本語という言語で均質化された社会なので大量に移民を受け入れることは困難です。必ず社会不安を引き起こすでしょう。