「貸す、借りるに新ルール」は正しいのか

6月18日から、改正貸金業法が施行されます。この改正で、大きく分けると以下の6つの新しいルールが生まれます。

  1. 借入総額は年収の1/3までに制限
  2. 専業主婦(夫)は、配偶者の同意が必要
  3. 一定額以上の借入では年収の証明が必要
  4. 個人事業主は決算書等の書類が必要
  5. 個人の信用情報登録が義務付けられる
  6. 借入の上限金利は20%


このような改正に至ったのは、グレーゾーン金利(利息制限法と貸金業法の上限金利の差)について、最高裁判所が違法と判断したことが主たる原因です。利息制限法の上限金利は約20%、貸金業法は約50%で、その差30%程度がグレーゾーン金利とされていました。消費者金融は、このグレーゾーン金利を合法であると主張して消費者に金銭を貸し付けていまいした。
しかし、最高裁判所がこのグレーゾーン金利を違法と判断したため、借主が払いすぎたグレーゾーン金利を取り戻すいわゆる「過払い訴訟」が日本中で流行しました。テレビでCMを流す弁護士事務所があるのは、この「過払い訴訟」の原告を探しているのです*1
過払い訴訟の頻発によって、消費者金融は廃業や縮小を余儀なくされています。体力のないところはかなり多く廃業していますし、大手も軒並み減収減益を繰り返しています。一時、毎日CMが大量に流れていましたが、最近ではほとんど見なくなりました。消費者金融は軒並み苦しい状況になっています*2


最高裁の判断が出たため、貸金業法はその判断にあわせて改正されました。しかし、法律が改正されても人の生き方は簡単には変わりません。多重債務者と呼ばれるような人たちの「お金が必要だ」という状況はさほど変わらないでしょう。今までは、許可を受けた消費者金融から借りていたものが、非合法の闇金に変わるだけだと想像しています。
かつて1980年代にサラ金地獄と呼ばれる問題が起きた時は貸金業法が存在しなかったため貸金業者がそれこそやりたい放題でした。その後、貸金業法が制定されたことにより貸金業者の多くは合法化され、警察や行政が介入し非合法な取り立ては減少しました。また、相手が合法的な業者となったため、弁護士や司法書士も介入しやすくなりました。
これが非合法な業者だと住所もわからず、過払い金等を回収するのが難しいため、弁護士や司法書士の多くは介入することを嫌がるケースが増えるでしょう*3。警察も、1件1件対応するのは面倒なので(本当は刑事事件なのですが)「民事不介入」と言って逃げるでしょうし、闇金はすぐに逃げてしまうので摘発が難しいものです。*4。行政にいたっては、監督権限がないため、一切何もできなくなります。
結局、改正貸金業法の施行によって、消費者金融に関するいろいろな問題が闇に埋もれていくだけです。


本来、上限金利を法律で制限する必要はないと思います。お金を借りたい人がいて、その人の信用に応じた金利で貸し出すのであれば、金利がいくらでも問題ないはずです。金利も見ずに借りるなど論外で、そのような人を標準として法律を作るべきではありません*5。いくら高金利であっても、そのことから直接に暴力や脅迫に至ることはありません。
本当に問題なのは、貸金業者闇金化(非合法化)することで暴力や脅迫による悪質な取り立てが横行してしまうということなのです。闇金はもともと非合法な存在でモラルなどありませんから過酷な取り立てを平気でやります。マズイと思えばすぐに逃げるので摘発も難しいです。監督官庁も存在しないので、文字通り無法地帯となります。
これが合法的な消費者金融だとあくまでも業者のサラリーマンが回収しているので一般に闇金ほどの激しい暴力や脅迫は行われません。闇金のような面倒なトラブルも少なく過払い金等を回収しやすいため、弁護士や司法書士も介入しやすいです。合法の業者は事務所があって逃げませんので、警察も介入しやすいですし、金融庁などの監督官庁の指導も期待できます。貸金業者が合法的な状態にあることは、借主にとって大きなメリットだと言えるのです。


改正貸金業法は、極めてパターナリズムの強い内容であり、需要と供給など一切考慮していません。例えて言うならアメリカの禁酒法のような法律ですので上手くいかないでしょう。闇金の市場が拡大して社会問題化するのは時間の問題です。

*1:テレビCMを見てサラ金からお金を借りた人にアピールするにはテレビCMが一番良いのかもしれませんが、CM系弁護士事務所は過払いや倒産以外の案件には対応してくれない事務所が多かったり、一度も弁護士と面会せずに訴訟するなど、数々の問題が指摘されているようです。

*2:合法的な業者が廃業や縮小する一方で、廃業した業者やリストラされた社員が闇金を始めるケースも増えているようです。

*3:現在でも、闇金からの借入がある人をそれとなく断る弁護士や司法書士も多いです。お金にならないし、面倒に巻き込まれたくないのだと思います。

*4:今でも非合法な闇金に対して警察の態度は消極的です。

*5:金利を見ずに借りてしまうような人は破産制度で保護すれば十分ですし、暴利行為であれば公序良俗に反して無効です。