中小企業はなぜ救われないのか−日本振興銀行事件に際して考えた。

暑いですね。なにもやる気がわかなくなる暑さです。とはいえ、3日も更新をさぼりましたので、また再開します。今日は、中小企業について考えてみたいと思います。


日本振興銀行は何を間違ったのか
最近、世間を騒がせている日本振興銀行は中小企業への融資に特化し、ミドルリスクミドルリターンを目指した銀行でした。現在は検査妨害で逮捕ということですが、本質的な問題は木村氏の独善的な体制だったようです*1
現時点では木村氏は否認していますし、この件が冤罪かもしれないので、これ以上、この事件についてコメントはしませんが、この日本振興銀行の「中小企業を救いたい」という理念は間違っていたのでしょうか。
私にはこの理念がすべて間違いだとは思いませんが、中小企業を融資という形で救済することは不可能だと思います。利息の支払いで苦しんでいるのにさらにお金を貸し付けても意味がありません。これではまるで薬物中毒の人に麻薬を売るようなものです。


救うべき中小企業とは?
では、どうすれば中小企業が救われるのでしょうか。まずは、中小企業はどういう会社なのか、考えてみましょう。


まず、中小企業とは大企業ではない会社のことです。法律にはいくつかの定義がありますが、法律論ではないので特に厳密な定義をせず、常識的な感覚で議論を進めたいと思います。
基本的に企業はほとんどは中小企業です。大企業などほんの一握りにすぎません。ただ、中小企業といってもいろいろあります。ブラック企業と呼ばれるような労働基準法もなにもないひたすらデスマーチが流れているような会社もありますし、ブラックどころか暴力団フロント企業もあります。他方で、上場企業並みにコンプライアンスが行き届いた素晴らしい労働環境を提供している会社もあります。
ここで、問題となるのは、救うべき中小企業とは素晴らしい中小企業で、フロント企業ブラック企業は救うべきではないということです。前提として救う価値がない企業は淘汰されるべきなのです。


ブラック企業と優良中小企業の違い
では、ヤクザのフロント企業はあまりにも特殊なので置いておくとして、ブラック企業と優良中小企業は何が違うのでしょうか。


まず一番大きく違うのはトップの意思です。中小企業は良くも悪くもトップの個性が支えている企業です。トップの個性が会社のすべてに影響を与えます。経営のトップが法令を遵守する意思を持っているかどうがで大きく違ってきます。
トップが労働法規を守っている会社の社員に会うと彼らのモラルの高さに気付きます。違法行為で楽をしようと提案してもはっきりと拒否しますし、約束をキチンと守ります。会社トップのモラルが高いので社員のモラルも非常に高いです。こういう会社は確実に伸びると感じています。


逆に、ブラック企業と呼ばれるような企業では、トップはモラルが極めて低いので社員のモラルも低いです。こういう会社では小さな横領事件や職務怠慢など挙げればきりがないものです。さらに、この手の会社の社員は表面的なやる気(一種のマインドコントロールだとおもいますが)だけはあるのですが、ギリギリの土壇場で逃げ出す人が多いのです。約束を守らないのもこの手の会社の特徴で、納期をずるずる延ばします。トップのモラルは社員に伝染します。駄目なトップが経営している会社は、社員まで駄目になります。


さらに、法令遵守だけでなく、経営トップが社員の福利を第一に考えているかどうかが大きいように感じています。経営トップが社員の福利を第一に考えている中小企業は間違いなく伸びています。特に、基本給が高いかどうかというよりも、それ以外の部分が問題だと思います。労働基準法にのっとって(もしくはそれ以上に)残業代を支払い(もしくは残業を禁止し)、有給休暇をキチンと取らせ、出産休暇、育児休暇をキチンと整備している企業は確実に伸びます。社員をめったなことではクビにせず、キチンと就業規則を定め、社員に周知している企業の社員は、会社のために真剣に働きます。つまらない問題を起こす社員も少なくなりますし、社員も自分に還元されることを知っているので合理化に真剣に取り組みます。やらされているのではなく、自ら積極的に働く社員はそうやって培われるのです。


中小企業は良くも悪くもトップがすべての会社です。経営トップは常に社員から試されています。気を抜いてはいけません。自らを律することができていないのに社員を責めるなど論外です。まずは、経営トップが法令を遵守し、社員を守らねばなりません。自分のことを棚にあげて社員を叱責したり社員の愚痴ばかり言っているならそんな会社はすぐ潰れます。
中小企業の社員はトップを見極めなければいけませんし、時にはトップを教育しなければならない時があります。それができずにトップに責任をなすりつけるような発言ばかりしていてはいけません。経営トップはなかなか転職できませんが、社員は転職できるのです。トップが駄目で聞く耳を持たないなら何年勤めても無駄です。決して救われません。さっさと転職すべきです。大企業への転職は景気に左右されるところが大きくかなり難しいですが、中小企業への転職はどんな時代でも門戸が開いています。必要なのはトップを見極める目です。


中小企業は大きくならなければいけない
話を中小企業の救済に戻しますが、中小企業が救われるには、適切なスピードで会社を大きくすることを目標にしなければなりません。徐々にでも大きくしなければ社員の福利を向上させることは難しいです。また、資金調達の面でも、利息を支払わなければならない融資に頼るのでは必ず行き詰ります。大きく利益が出ている時に利益を留保し、適切な時期に上場するなどして自己資本を調達しなければ経営は安定しません。


特にデフレ下では、中小企業であろうとすれば、より厳しい状態に追い込まれていきます。小さい会社では経営者は王様になることができますが、社員にとってはまったくメリットがありません。高い技術があるなどといって自慢しても社員の生活が苦しければ何の意味もありません。そんな会社には優秀でやる気のある社員など入ってきませんし、得るものがないなら社員も努力しようなどと思わなくなります。
小さな会社は簡単に潰れます。中小企業は中小企業のままでいてはいけません。追い詰められる前に自ら攻めなければいけません。下請けなどに甘んじていないで、ライバル企業を買収合併して市場占有率を上げる努力をすべきです*2。それができなければ、中小企業はいつまでたっても救われません。


最近、日本経済が停滞しているのは中小企業のままでいいと考えている企業が多いからではないかと思います。高い技術を持って少数精鋭でやりたい、という経営者が多いように思います。しかし、それは経営者のエゴでしかありません、それでは社員は救われませんし、ちょっとしたことで会社は簡単に傾きます。中小企業は適切なスピードで大きくなっていかなければならないのです。


すこし大げさな話をしますが、今、世界を騒がせているアップルは、30年前は小さな中小企業でした。グーグルに至ってはまだ操業してから12年です。中小企業が成長することが経済を活性化させるのです。かつては、トヨタやホンダ、スズキなどの自動車メーカーも中小企業でした。ソニーパナソニックも中小企業でした。テレビだって放送開始当初は中小の貧乏企業にすぎませんでした。経済は常に中小企業が大きくなりながら強力に牽引するものなのです。大企業には期待できません。


中小企業に必要なのは融資ではなく自己資本である
このように考えていくと、中小企業に必要なのは利息支払いの負担が重い融資ではなく、リスクに耐えられる自己資本であるといえます。中小企業を本当に救うことができるのは銀行や高利貸しではなくて専門家集団であるベンチャーキャピタルだと思います。それなのに日本ではベンチャーキャピタルがなかなか育ちません。中小企業が救われない本当の理由はこのあたりにあるのではないでしょうか。

*1:こちらこちらなどを参照してください。

*2:ニッチ市場を占有している企業も、同種の企業を買収合併すべきです。将来的な市場の衰退に備えなければいけません。