講談社が「星海社」という電子出版の子会社を作ったらしい

大手出版社の講談社が「海星社」という電子出版子会社を作ったようです。fladdict氏のブログで知りました。


報酬1円というのは良くないなと思うのですが、枝葉の話なのでちょっと置いておきます。それよりも何よりも、何でしょう、この会社の「理念」

星々の輝きのように、才能の輝きは人の心を明るく満たす。

その才能の輝きを、より鮮烈にあなたに届けていくために全力を尽くすことをお互いに誓い合い、杉原幹之助、太田克史の両名は今ここに星海社を設立します。

出版業の原点である営業一人、編集一人のタッグからスタートする僕たちの出版人としてのDNAの源流は、星海社の母体であり、創業百一年目を迎える日本最大の出版社、講談社にあります。僕たちはその講談社百一年の歴史を承け継ぎつつ、しかし全くの真っさらな第一歩から、まだ誰も見たことのない景色を見るために走り始めたいと思います。講談社の社是である「おもしろくてためになる」を踏まえた上で、「人生のカーブを切らせる」出版。それが僕たち星海社の理想とする出版です。

二十一世紀を迎えて十年が経過した今もなお、講談社の中興の祖・野間省一がかつて「二十一世紀の到来を目睫に望みながら」指摘した「人類史上かつて例を見ない巨大な転換期」は、さらに激しさを増しつつ継続しています。

だからこそ僕たちは、その「人類史上かつて例を見ない巨大な転換期」を畏れるだけではなく、前向きに楽しんでいきたいと願うのです。未来の明るさを信じる側の人間にとって、「巨大な転換期」でない時代の存在などありえない。新しいテクノロジーの到来がもたらす時代の変革は、結果的には、常に僕たちに新しい文化を与え続けてきたことを、僕たちは決して忘れてはいけない。星海社から放たれる才能は、紙のみならず、それら新しいテクノロジーの力を得ることによって、かつてあった「出版」の垣根を越えて、あなたの「人生のカーブを切らせる」ために飛翔する。僕たちは古い文化の重力と闘い、新しい星とともに未来の文化を立ち上げ続ける。

僕たちは新しい才能が放つ新しい輝きを信じ、それら才能という名の星々が無限に広がり輝く星の海で遊び、楽しみ、闘う最前線に、あなたとともに立ち続けたい。

星海社が星の海に掲げる旗を力の限り、あなたとともに振る未来を心から願い、僕たちはたった今、「第一歩」を踏み出します。

二〇一〇年 七月七日
星海社 代表取締役社長 杉原幹之助
代表取締役副社長 太田克史


何なんでしょうね、これ。講談社文庫の最後のページを読みながら書いたのでしょうか。サラリーマンとしてはよっぽどの覚悟なのでしょうが、しかし、気負いすぎというかなんというか。サイトを見る限り中身なんか全くなくて、「理念」だけ頭でっかちになってます。


まず、何も成し遂げていないのに、既に自分の名前を入れちゃうあたり、どうなんでしょうか。会社を作っただけでもう成し遂げた気分なのでしょうか。もしそうなら必ず失敗します。
それに、自分らの名前の下に野間省一氏の名前を並べてみたり、感覚が良く分かりません。よいしょするなら最初に書かねば意味はないでしょうし、自分の名前と並べるなど畏れ多くてできないはずです。
そして、なによりも、最大の欠点は、何を言っているのかさっぱりわからないってことです。理念ってのは、暗記できるくらい短くなければ駄目なんですよ。例えばソフトバンクは「情報革命で人を幸せにする」、グーグルは「邪悪になってはいけない」。中身は何でも良いんですけど、わかりやすくて暗記ができるってことが大切なんです。そうじゃないと、社員の間で共有できないですから。


あと、これは経験則なんですが、ベンチャーって、まず最初に技術的(もしくはビジネスモデル的)にこれはすごいって思わせなければ99.99%ダメです。最初駄目駄目だったけどあとからなんかすごいことやったね、ってのを未だかつて見たことありません。最初に「理念」なんか並べてる余裕なんかない、それがベンチャー。人数が増えてこのままじゃまずいってなって、初めてミッションステートメントを作る、それがベンチャー
理念だけだと、何をしたいのか、何をしようとしているのか、さっぱりわからないのでした。


それと、fladdict氏のブログの以下の記述。

僕のお仕事は、ウェブデザインというよりは、「右クリック禁止にしようぜ!」とか、「DRMつけようぜ」といった大人の事情あふれるご意見を、体をはって食い止めることです。 

そんなところの議論に時間や労力をかけていたら永遠に電子出版などできないんじゃないかと思うのでした。グーグルやアマゾンのやり方は、常にユーザーの視点でとりあえずやってみる、というものです。のんびり議論してたら絶対に勝てません。ユーザーが求めているものを適切な価格で提供するしかないんです。
それに、プラットフォームを作るのは出版社がやることではないでしょう。競争相手である他の出版社が使ってくれるとは思えません。電子出版のプラットフォームを作れるのはグーグルやアマゾンのような競合しない企業です。


日本のベンチャーって、9割くらい社内ベンチャーで、しかも、ほとんどイケてません。何の実績もない人にお金を出すっていう仕組みもないし、仕方ないのかもしれないですが、社内ベンチャーって手足を縛られた状態ですから、結局何もできないって場合が多い。
でも、電子出版のプラットフォームさえできれば、でっかい印刷機(や在庫を抱えるための資本)なんかいらなくなるので、やり手編集者ならパソコン一つで起業できるようになります。そういうタイミングまで待てばいいのではないかと思います。


そして、電子出版なんて時間がたてば当たり前に普及します。検索エンジンのような革新的な部分はどこにもありません。天才が必要なわけではないし、世界を変えるような話でもありません。あまり気負わない方が良いと思います。自然に流れていればあと5年くらいで気づけば皆、電子出版をしているでしょう。


最後に、電子出版はおそらくブラウザベースで展開する業者が勝つでしょう。専用端末でなければ読めないというのは経済的負担が大きいですし何かと面倒ですから消費者に支持されないでしょう。KindleiPhoneアプリは、一時的なヒットはあってもそれが一般に普及するとは思えません。
今の段階ではグーグルの方式が消費者に支持されるのではないかと思います。電子書籍が普及しても紙の書籍はなくならないですし、これまでに出版された書籍を電子化する作業もありますので、あくまでも紙の書籍をベースにして考えるというのは間違っていないと思います。あとは、スマートフォンや携帯端末でも読みやすくできるかです。この点を克服すれば(そして克服するでしょうが)グーグルのプラットフォームが勝利するだろうと思います。


※追記
良く見たら、「すべて無料で提供」って書いてありました。今更、無料のビジネスモデルでやるらしいです。新聞社のウェブサイトの収支を見ればわかる話ですが、無料のビジネスモデルは貧困のスパイラルでしかありません。1円報酬もその文脈で理解するのが正しいと思います。