増税が消費税であってはいけない5つの理由

消費税に関する議論はますます盛んになっているようです。小飼弾氏の「税金は死んでから収めよう」は必読でしょう。他方で、増税は消費税でなければならえないと言い続ける方がおられるので、増税は消費税であってはいけない理由をわかりやすくまとめてみました。


1 消費税は逆進的である
消費税は、消費額に対して一定割合を課税しますので、すべての人に同じ税率が科せられることになります。所得税のように累進税率が設定されることはありません。年収100万円の人も年収1億円の人も同じ税率なのです。年収1億の人にとっては極端に負担が軽いのです。これは、あるところから取るという税の応能負担の原則に反しています。
それだけではありません。消費税には、さらに逆累進性があるのです。
仮に、税率20%の消費税が導入されたとして、年収300万円のAさんと年収3000万円のBさんがいるとして、Aさんは年収のすべて消費し、Bさんは2500万円を消費し500万円を貯蓄するとします。そうすると、Aさんは60万円の消費税を支払うことになり、その年収に占める税の割合は20%です。これに対してBさんは500万円の消費税を支払うことになり、その年収に占める割合は16.66%です。高所得者ほど貯蓄性向が高くなりますので、逆累進性が強くなるのです。
消費税は、低所得者に重い負担を課す税なのです。


2 消費税は若年層の負担が大きい
消費税は消費をする人の負担が大きい税です。さきほどのAさんに子供が生まれて学資ローンを100万円借りたとします。Aさんの年収は300万円、消費額は400万円とすると、Aさんは80万円の税金を支払うことになります。年収に占める割合は26.66%になります。住宅ローンを組んだ年などは年収よりも消費税の支払額の方が多くなることもあります。資産がなく借金をせざるを得ない若年層の税負担は極めて重くなり、生活はますます厳しいものになります。


3 消費税の逆進性を緩和することは難しい
消費税の累進性を認める論者も、複数税率制や給付付き税額控除制度を導入して累進性を緩和すればよいと主張しています。しかし、これは机上の空論です。


(1)複数税率制の問題点
たとえば、外食以外の食料品の税率は5%据え置き、それ以外は20%にするとします。そうすると物を売る現場は混乱します。たとえば、ミスタードーナッツでテイクアウトすると食料品で5%、中で食べると20%の消費税がかかるとするとどう思いますか。スターバックスラテも、テイクアウトと言えば15%安くなるのです。店の中はガラガラだけど、店の前に人がたくさんたむろする、などという現象が生まれます。税率の差によって消費が歪むのです。
ほかにも、問題はあります。食料品の税率を5%とすると、松坂牛やフォアグラ、キャビアなどの超高級食材も税率5%です。高級食材は高税率としようにも、どこから高級食材なのか線を引くことは不可能です。結局、高級食材が低税率なのはおかしいという不満の声が上がることでしょう。


(2)給付付き税額控除の問題点
給付付き税額控除制度を導入するには、それぞれ個人の所得総額を把握しなければなりませんが、これが非常に難しいのです。サラリーマンは収入が基本的に給与だけなので簡単かもしれませんが、個人事業主や日雇い労働者の所得把握は極めて困難です。いずれも自己申告を信じるほかないという状態になります*1
いくら給付するのかも問題になります。政府は個人が支払った税額を還付する形を考えているようですが、これは極めて難しく人権侵害の恐れさえあります。個人が支払った税額を把握するには、すべての領収書を保存しなければならないのですが、これは負担が重すぎます。また、すべてのレシートを保存し提出すると購入したものがすべて明らかになりますのでプライバシーの侵害が問題になります。結局、個人が支払った税額を把握するなどほとんど不可能な話なのです。
そうすると、所得に応じて一律に金銭を給付するしかないのですがこれではただのバラマキです。バラマキのための財源として消費税を増税することになり、役所の事務コストも増大します*2。何のために消費税を増税するのか、意味が分からなくなるでしょう。


4 景気に悪影響を与える
消費税の増税は、理論上、税率上昇分物価が上昇します。これは消費に与える影響が大きく、必ず景気が落ち込みます。橋本内閣が2%増税したことによって景気が落ち込んだことを忘れてはなりません。不景気の時には消費税増税はやるべきではないのです。


5 海外からの観光客が減少する
消費税が高い国は物価が高く感じるので海外からの観光客が敬遠します。免税店を用意してもショッピングの自由度が減るのは観光客にとって好ましくありません。還付制度を用意するにしても事務処理が膨大になり、うまくいかないでしょう。消費税の増税は海外からの観光客を増やそうとしている流れに反しています。


ということで、増税は消費税であってはいけません。まずは、所得税の累進性を強化することです。8億円もらっている人が6億円支払っても余裕で生きていけますが、300万円しか収入がない人が80万円支払うと命にかかわります。増税について考える時、応能負担の原則を忘れてはいけません。

*1:現在の所得税の確定申告(白色)も基本的に自己申告を信じているのですが、税を支払う手続であればまだしも、国が金銭を給付する場合にそのような性善説をとることには大きな問題があるのです

*2:定額給付金子供手当ての所得制限導入の議論を思い出してください。