「光の道」構想について考える

ソフトバンク孫正義氏が、日本中のすべての家に光ファイバーをひく「光の道」構想を唱えています。この「光の道」について、賛成派、反対派が熱い議論を展開しています。


詳しい議論は実際に記事や動画、テキストを見ていただくとして(おすすめするのは孫氏と池田氏の対談動画またはテキストです。)、おおざっぱに説明すると、孫氏は日本中に張り巡らされているメタル線をはがして光に張り替えることを主張されています。光回線にした方が維持コストも安い(=光回線を今よりも安く提供できる)し、増大し続ける情報流通に対応するには光回線しかないというのがその主張の主な根拠です。
だた孫氏は国費ゼロにこだわっていますが、本当に役に立つのであれば公共事業でやってもいいのです。国費ゼロかどうかは私にとってはあまり重要な論点ではありません。私にとって最大の関心事は、光回線にして「役に立つのか」(どのくらいの経済効果があるのか)ということです。
そのほか、詳しいことは、動画を見ていただくとして、私としては「光の道」構想が役に立つのかについて考えてみたいと思います。


まず、すべての家に光回線がつながると、誰でも画像や動画を自由にアップロードすることができるようになります。ADSLではアップロードに限界がありましたが、その限界がなくなりますので、いわゆる生中継が誰でもできるようになります。


これは、情報流通にとって革命と言えます。テキスト情報は情報を発信する側に文章を書く能力がなければいけませんが、文章を自由に書くことができる人は世の中にそう多くはありません。テキストベースでは流通する情報はおのずと限られていました。
しかし、画像や映像はカメラさえあれば誰でも簡単に発信できます。これは情報流通の革命です。映像を簡単に発信できるということは、とても利用価値があります。


たとえば、一人暮らしの老人の家にUstreamの中継設備を設置すれば家族や介護の人が遠くからでも見守ることができます。セコムのような警備会社が防犯カメラへの応用も可能です*1。テレビで生中継するほどの価値はないけれども大勢の人が興味を持つようなスポーツの試合(たとえばJリーグの試合など)やイベントを生中継することもできます。国立大学の授業を全部生中継してもよいでしょう。自分のパソコンにあるデータをすべてクラウド化してしまうことも可能です。ユーザーサポートにリアルタイムの映像を送ることもできます。
大きなデータのアップロードが容易になると、今までは見ることができなかったリアルタイムの映像を日本中どこにいても見ることができるようになるのです。情報を容易にアップロードできるようになるということは、ものすごく大きな可能性があるのです。


ダウンロードに要領の制限が無くなることも大きな変化です。ハイビジョン動画をインターネットで配信することも容易です。新聞、雑誌、書籍やテレビもインターネットを通じて配信することが可能になります。とくにペイテレビはインターネットで配信した方が視聴者の需要にこたえることができますので、インターネットへの移行は時間の問題でしょう。インターネット上の図書館ができれば、もう図書館まで行かなくてもよくなります。ゲームもインターネットで買うのが当たり前になるでしょう。


光回線がすべての家に引かれば、あらゆる情報が光を通じて入手できるようになるのです。そして、流通コストが非常に安くなるのでコンテンツの料金が劇的に安くなるでしょう。
佐々木氏は利活用が問題だと主張されていましたが、現時点でも、光回線を有効に使うアイディアは数限りなく溢れています。本当の問題はそのアイディアが今のところコンテンツを持っている企業にとってペイする状態にはなっていない、ということなのです。


なぜ、ペイする状態になっていないかというと、光回線の普及率が約3割程度とかなり低い状態だからです。現在、光回線を導入するにはたいてい数万円のコストが必要(ラストワンマイル問題)で、その上、毎月7千円近い通信費を支払わなければなりません。これは一般家庭にとって大きな負担です。一般家庭に光回線が普及しないとコンテンツを配信する側も投資に二の足を踏みます。そのため、なかなか光回線での配信に踏み切ることができず、様子見している状態なのです。せっかく日本中に光回線を引いてあるのに使わておらず、宝の持ち腐れ状態なのです。
しかし、これがすべての家庭に光回線がつながりランニングコストADSL並になれば一気に光回線の普及率は上昇します。光回線の普及率が上昇するとの予測がたてばコンテンツ配信業者は一気にインターネット配信に踏み切るでしょう。PCメーカーや家電メーカーも対応商品の開発・普及に力を注ぐでしょう。
今まで紙や電波、DVD、ROMカートリッジなどで配信していたものの内、少なく見積もっても半分*2くらいが光回線で配信されることになると思われます。その経済効果は莫大なものになると予想されます。


「光の道」構想は、実現できれば情報の流通に革命を起こします。これを世界に先駆けて実現できれば、日本にとって大きなアドバンテージになります。光回線工事のノウハウやコンテンツ配信のノウハウを蓄積すれば丸ごと海外に輸出することもできます。波及する経済効果はとても大きなものとなるでしょう。
ゆえに、光の道構想は何としても実現すべき政策だと思います。そして、これは国費を投入して公共事業として国が率先してやってもよいくらい役に立つ事業だと思います。現在、これほどまでに役に立つ事業は他にないと言っても過言ではないと思います。NTTが自らやろうとしないのであれば、国が率先して予算を付けても良いのではないかと思います。こういった事業は先んずれば制するものですので、誰がお金を出すかという問題で時間をかけるのは愚かな行為です。早期に実現することが何よりも大切だと思います。

*1:既にやっていると思いますが、それがより低コストでできるようになります。

*2:実際はもっと多く音楽や映画などの映像コンテンツはほとんどインターネット配信が中心になるのではないかと思います。