労働基準法という格差

労働基準法と格差について考えてみました。仕事を探している大学生や転職活動中の方などに参考になる情報だと思います。


労働基準法に守られるのは一部の人だけ
日本には労働基準法という法律があることはよく知られていることだろうと思います。しかし、労働基準法を順守している会社は日本にあまりありません。現状で労働基準法をきちんと守っている会社は1割にも満たないのではないでしょうか。
労働基準法が守れれているのは、公務員や独法などの国の機関、一部の優良企業くらいのものです。ほとんどの中小企業は労働基準法を完全に無視していますし、個人事業主労働基準法など適用されません。
偽装請負は、従業員を形式上個人事業主にすることで労働基準法の適用を除外するために行われます。ただ、法的な形を整えようとするだけまだマシとも言えます。ほとんどの場合、あからさまに労働基準法に違反しているだけです。こういう会社はブラック企業などと呼ばれます*1


ほとんどの人が泣き寝入りしている
労働基準法は、本来すべての労働者に適用されるものです。雇用者は会社の規模に関係なく、労働基準法を順守する義務を負っています。しかし、労働基準法の内容が全ての労働者、雇用者に周知されているとは言えませんし、知りたいとも思わないようです。
労働基準法違反には罰則もありますが,罰則が適用されることは極めて稀で、罰則がある意味はほとんどないといと考えてよいでしょう。
労働者は、労働審判や裁判で労働基準法違反を主張し、損害賠償などを請求することができますが、雇用主との関係が決定的に悪化し、最終的には辞めざるを得ない状態に至ります。労働審判や訴訟をしたという経歴がばれると再就職もままなりません。
ほとんどの労働者は労働基準法違反について泣き寝入りせざるを得ない状態にあります。


労働基準監督署は役立たず
国には労働基準監督署という労働基準法違反を監視する機関があります。匿名で通報することもでき、違反を見つければ改善を指導してくれる場合もあります。しかし、組織ぐるみで偽装されれば違反を見つけることは困難ですし、規模が小さい会社の場合、匿名と言っても誰が通報したかすぐわかってしまいます。改善を指導されても無視されてしまうこともあります。最近では、指導が入ったり訴訟になるとすぐに廃業してしまうケースも多いようです。こうなると労働者は仕事を失うため本末転倒になってしまいます。労働基準法を遵守させることはとても難しいのです。


労働基準法を守ると会社が潰れる
雇用する側から考えてみると、労働基準法には実現不可能なことが書かれていると感じるでしょう。中小企業で残業手当や有給休暇を規定通りに払えるほど景気のいい会社は非常に稀です。ほとんどの中小会社は、正社員になると残業手当はなくなり、有給はあっても消化率が極めて低いもが現実です。もちろん違法ですが、中小会社の業績を考えればやむを得ない部分も多いと思われます。多くの経営者は、できることなら残業手当を支払いたいし、有給消化も認めたいと考えているのだろうと思います。しかし、そう思うのと同時に、それをしたら会社が傾くと考えているのが現実でしょう。
労働基準法を守らない中小企業の正社員よりも労働基準法を厳格に守っている会社の非正規雇用の方が、労働環境を考えるとかなりマシなケースもよくあります。わかりやすい言い方をすると「ブラック企業の正社員」では正社員である意味はないのです。


大企業の労働環境はブラック企業が支えている
上場しているような大企業はコンプライアンス遵守が求められます。そのため、自社の社員については労働基準法を厳格に守ります。しかし、外注先が労働基準法を守っているかどうかなど全く関係ありません。徹底的なコストカットを要求し、外注先の労働環境など気にもとめません。一部の労働基準法を遵守する企業を、多くの労働基準法を無視している企業が支えているという現実があります。
労働基準法を実効力のあるものにするには、上場企業が労働基準法違反の企業と取引することを規制する必要があると思いますが、日本の産業構造を考えると現実には不可能でしょう。労働基準法は、実効性という観点から考えると極めて不公平な法律です。一種の階級差別といっても良いでしょう。


労働基準法と国際競争
世界の多くの国では、まともな労働基準法が存在しないか、存在してもほとんど守られていません。仮に日本で労働基準法が完全に守られる社会が実現したとすると、日本は国際競争力を失います。
国内で労働基準法を守らせた上で国内市場での競争力を維持するには、日本と同程度の労働基準法が存在しそれを順守している国以外の国の製品には労働基準法維持コストに相当する関税を課すことが必要です。
現在、世界中で、生産拠点を労働コストの安い国や地域へ移す企業が増加したため経済摩擦が起きています。今後、国際的にこのような関税が一般化するかもしれません。ただし、関税をかけるという手法では国内市場は守れても、海外市場での競争力を高めることはできません。他国の労働環境に干渉することはできないので、輸出産業の競争力を維持するには労働コストを下げるしかありません。今も昔も輸出産業が日本の経済を支えていますし、これからもこの産業構造はかわらないでしょう。そうすると、ほとんどの中小企業では将来にわたって労働基準法違反の状態が続くと思われます。労働基準法遵守の有無という格差は過渡的なものではなく、長期間固定化されることが予想されます。いくら労働運動を盛り上げてもダメです。労働条件はよくなるかもしれませんが、同時に失業率が上昇するだけです。今よりもひどい状態になるかもしれません。


格差の本質は労働基準法尊守の有無である
近年、格差を正社員か否かという契約形式で判断する論調が巷を席巻していますが、この考え方は問題の本質を捉えていません。
労働者の立場から考えると、同じ正社員でも、労働基準法を遵守しているか否かによって正社員としての価値は大きく異なります。「正社員」を一括りにして語るには、正社員の間の格差が大きすぎます。正社員の底辺は優良な企業の非正規雇用よりも酷いケースが多いですから「正社員」というものに幻想をいだいてはいけません。
なお、非正規雇用の間にも極めて大きな格差があります。大手企業の非正規雇用は、社会保障完備、残業手当も100%支給、休憩時間もあり、有給休暇の消化も100%可能な場合がありますが、中小企業の非正規雇用国民年金雇用保険も有給休暇もなく、簡単に首を切られるなど、極めて悲惨な場合が多いです。
格差問題の本質は、正社員化非正規かではなく、雇用者が労働基準法をどのくらい守っているか否かなのです。


学生や求職中の方におかれましては、労働基準法適用の有無(ブラック企業かどうか)という点をよく調べた上で行動されることをおすすめします。入社前に会社にまともな労働組合があるか調べておいた方がいいでしょう。下手な企業の正社員よりもまともな労働組合のある優良企業のパートになった方が生活が安定するでしょう。そういう会社は能力次第で正社員への登用もあります。

*1:ブラック企業の実態はビジネスメディア誠の「もう限界かもしれない……“ブラック企業リスト”の実態」に詳しい。