竹原信一阿久根市長の反乱は一種の革命なのかもしれない

ここ数年、鹿児島県阿久根市竹原信一市長の行動が世間の注目を集めています(wikipedia:竹原信一参照)。国や県、マスコミは一貫して竹原市長を批判し続けていますが、どうも話はそう単純ではないように思います。考えれば考えるほど、この国の地方自治システム(法体系)が硬直化していて市民の意思が行政に反映されないことがすべての問題の根源にあるのではないかと思えてきます。


まず、問題になった竹原市長の行為をいくつか紹介します。2009年2月20日阿久根市の全職員268名の給与明細を公表しました。竹原市長は阿久根市税収20億円のうち17億3000万円が人件費として計上されていることを理由としています。
次に、2009年4月1日付の人事異動で市議会議長に任免権がある議会事務局職員を異動させました。また、同日付けの人事異動で10人の職員を降格させましたが、その際、地方公務員法で規定されている降格理由の文書交付を行いませんでした。この件は、市公平委員会が人事異動を取り消すように裁定したにもかかわらず市長は従わず、地方自治法違反で刑事告発にまで至っています。
次に、2009年4月に市庁舎内に職員人件費の掲示を行った際、その張り紙をはがした男性係長を7月31日付で懲戒免職としました。この懲戒免職は裁判所が違法であるとして取り消しを命じましたが、市長は無視しています。
その他、議会を招集せず、職員の期末手当を約3分の1に、市議と市長の賞与を約半分にする条例改正を専決処分するなど専決処分を連発しており、法律を無視してやりたい放題の感があるのですが、今のところリコールは成立していません。


竹原市長が法律を意図的に無視していることは否定できないと思います。ただ、違法行為をする市長はけしからん、と批判するだけでは問題は解決しないとも思います。なぜなら、この違法行為をする竹原市長を阿久根市民が支持しているからです。


この竹原市長、2009年2月に議会から不信任決議を受けています。これに対して、竹原は議会解散しましたが、出直し市議選後初めてとなる平成21年第2回市議会臨時会において不信任決議案が再度提出されて可決し自動的に失職しました。しかし、その後の出直し市長選挙に出馬し、2009年5月に再選しているのです。市長に対する市民の支持があることを忘れてはなりません。市民が市長を支持したため、現在はまるで革命が起きたような状態になっているのです。


竹原市長のやっていることは確かに法律を無視しており乱暴なのですが、それでも阿久根市民は「よくやった」と思っているのでしょう。議会によって失職させられた竹原市長を再度支持して再選させました。おそらく市役所という官僚組織やその利益を代弁するだけの市議会に対する市民の怒りはとても大きいのだと思います。
しかし、この市民の怒りを合法的に実現する方法は現状ないに等しいのです。地方自治法が市長の手足をがんじがらめに縛っていて法律に従っていては何もできない状態にあるのは事実です。そのため、市長は変われど公務員は変わらず、公務員はどんどん肥大化を続けています。どこの自治体も財政的に逼迫しても公務員はまったくリストラできずにいます。公務員の首を切ることは総理大臣にだってできません。この国では公務員はほとんど無敵、アンタッチャブルなのです。それを法律を無視してでもクビにしたり給料を下げたりした市長が支持されるというのは、市民の心情として分からなくもありません。


現在、市民の一部がリコールの署名を集めているそうですが、リコールが実現するかは不透明です。私はリコールの実現は難しいのではないかと思っています。阿久根市民には、竹原市長は手段はかなり荒っぽいがやっていることは正しい、という思いがあるでしょう。客観的に見ると逼迫した財政を立て直そうとしているのは竹原市長ただ一人です。市民の本当の敵は竹原市長ではないことくらい市民のほとんどは気づいているでしょう。
鹿児島県は、倒幕の中心となった幕末の志士を生んだ土地です。手段よりも結果を重視する人が多いように感じます。そして、一度支持すると決めたら頑固に支持し続ける土地柄です。今は市長個人の反乱ですが、徐々に市民の革命ないし一揆のような状態になるのではないかと思います。


私は、阿久根市民は竹原市長の一連の行為を支持しており、現状は一種の革命のようなものではないかと感じています。違法行為が正しいとは思いませんが、他方で手続に従っていては全く前に進まないことももはや明らかです。このような閉塞状態の中にあって革命のような状態に至ってしまったことも理解できなくもありません。何よりも忘れてはいけないのは、この硬直化した地方自治のシステムを作ったのは公務員です。地方自治法は公務員に私物化されてしまっているのではないかという思いがあります。


阿久根市のケースは日本で最初の革命なのかもしれません。そろそろ国や県は全力で潰しにかかるでしょう。どこまで続くかわかりませんが、私は公務員の目線ではなく市民の目線で注視していきたいと思います。


※追記 デイリーポータルZで、阿久根市の様子が紹介されています。最後のページには市長の人気ぶりが記されていました。