英語社内公用語化に関する議論のまとめ

英語公用化がブームのようです。ユニクロ楽天は、社内の会議をすべて英語にするそうです。このニュースが流れてから、あちこちで社内英語化の是非に関する議論が沸騰しています。面白いので他の方のエントリーを紹介したいと思います。四角の中には、私が気になった部分を引用してあります。

1. 日本語が公用語のままでは、海外からの一流人材は集まらない。
2. 日本より人材コストの安い新興国市場が拡大してるからこそ、英語化が必要
3. 最初から自然と世界を目指せるようになる
4. 外資系ではなく、日本企業だからこそ英語公用語化が必要。

この方の議論はちょっと論理とは違うところにあるように思います。次に紹介する内田氏の「植民地主義的」なマインドに近いかもしれません。細かな論評は避けますが、全く現実的ではなくソビエトのような社会実験という感じがします。

私自身は「リンガ・フランカ論」でも書いたように、国際共通語の習得は日本人に必須のものだと思っている。
ただ、その習得プロセスにおいては、決して「言語運用能力」と「知的能力」を同一視してはならない、ということをルール化しなければ「植民地主義的」なマインドと「買弁資本的おべんちゃら野郎」を再生産するリスクが高いということは繰り返し強調しておかなければならない。
(中略)
ツールである以上、それは徹底的に道具的に使用されなければならない。
それは「道具を使ってやる仕事の完遂」が「道具運用技術の巧拙」よりも優先するということである。
(中略)
その順序を過つと(たぶん過つと思うが)、英語を公用語にした企業の未来はあまり明るくないであろう。

私は内田氏の議論は回りくどいのであまり好きではないのですが、今回の議論は比較的わかりやすく、明快だと感じました。私なりに解釈すると、「英語は道具である。道具は、それを使って何を作ったのかが大切であって、道具の素晴らしさを競っても仕方ない。英語を公用化した会社は、道具の素晴らしさではなくて何を作ったかで人を評価できるのか」といったところでしょう。

H&MやLVMHの海外での売上比率と比較して)
つまりグローバルな競争をしてゆく以上、英語で会議をしたり社内文書を作成するのは或る程度避けられないということです。

ユニクロの目標が海外で売上を増加させることにあるのなら、英語化は必要なのでしょう。ただ、管理部門や開発部門ならいざ知らず、ユニクロの日本国内の店長に英語力がどれほど必要なのか疑問です。仕事上必要のない人に命令しても、笛吹けど踊らず、となる可能性もあるでしょう。店長も海外転勤するつもりならあれですが、どうなんでしょうか・・・。

問題は一般的に日本企業が不得意といわれているプロダクトとサービスを結びつける部分、特に開発者間のエコシステムを作る部分なのではないかと思います。
(中略)
情報の発信源、開発者とのコミュニケーションが日本語に偏るエコシステムが世界的に成功するとはとても思えません。

世界中で使うベースとなる部分では英語を使うのが一番効率が良いのだと思います。ただ、公共語化というのとはちょっと話がずれています。

(履歴書廃止、残業禁止、同一労働同一賃金
この3つが行えなければ、日本人だろうと外国人だろうと優秀な人材は逃げてしまい、英語公用語化どころではないだろう。

これはその通りだろうと思います。特にグローバル企業になろうとするのであれば、残業禁止と同一労働同一賃金は絶対条件でしょう。外国人であれば暴動を起こします。そういったレベルのあり得ない話なんだということを経営者や中間管理職は理解すべきでしょう。

木谷会長は、社員に求められる英語レベルを以下のように発言しています。

 入社3年目程度でTOEICのスコア600点以上、管理職級で700点、執行役員候補級では750点以上が求められる。
週刊東洋経済」 (2010年6月19日号)

 大卒後3年間を本気で勉強して600点取れないようであれば、何やっても駄目な人でしょう。また、社命なのに「本気」になれないような人には、早く去ってもらう方が会社にとってハッピーでしょうし、その人自身にとっても将来を考えたらさっさと辞めた方が身のためです。

このブログが一番具体的で説得力がありました。執行役候補級ですらTOEICで750点だそうです。この程度で本気で英語でビジネスができるのか、やや疑問ではありますが、ある程度の大学を卒業する程度の学力がある人なら、必要となればできるようになるレベルでしょう。ただ、TOEICはあくまで目安で点数を取ることが義務化してはいけないと思いますね。


公用語英語化なんていう話になっていますが、現実は社内英語サークルに社員全員が強制加入させられた、という感じでしょうね。随分ワンマンな会社だなと感じますが、他方でそれなりの効果も期待できるのではないかと思います。英語のサイトを読む社員が増えるだけでも大きなメリットでしょう。
あとは、社内英語サークルにどの程度の意味を持たせるのか、という点でしょう。英語はできるが仕事ができない人を台頭させては会社はつぶれますし、逆に英語はできない(点数は低い)けれども仕事ができる人を排除しても会社はつぶれます。英語ができた方が良いけれど、あくまでも仕事の結果で評価する仕組みがなければ、その会社は急速に衰えるでしょう。


最後に、企業が世界で生き残るために本当に必要なのは、社員の英語力ではなくて、海外で一から仕事を組み立てる総合的な力なんじゃないかと思います。たしかに英語も必要でしょうが、英語などできる人に話してもらえば良い場合も多々ありますし、専門的な話になればなるほど間違いは許されませんので通訳を使うべきです。
本当に英語が必要ならバイタリティのある社員は既に習得しているはずです。習得できないならそれまでの社員です。落ちこぼれなどどの世界にもいます。ただ、実際には仕事に必要もないのに、余興として学ばなければならない状態に追い込まれるのは苦痛以外の何物でもありません。本当にビジネスで必要なのかを見極めることが極めて重要だと思いますが、ワンマンの会社は往々にして読み間違えることがあるように思います。


実は社内公用語の英語化の是非など議論する意味はなくて、英語化する必要性がビジネスをする上で本当にあるのかが問われているのではないかと思います。