大嶽親方は嘘をついているのではないか

NHKのニュースで大嶽親方のインタビューが流れました。江川昭子さんが「NHKが大嶽親方のインタビュー。琴光喜の恐喝のきっかけは、自分が勝った金の回収を頼んだためで、『全て自分が悪い』と。自分はどんな処分も受ける、としたうえで『現役力士にはもう1回だけチャンスをやって欲しい。お願いします』と涙を流して土下座。気持ち動かされた。甘いかもしれないけど」とつぶやいています。


私はこのインタビューを見て、直感的に「この人は嘘をついている」と感じました。警察のリークや週刊現代の記事が間違いだったとは思えません。琴光喜に対する周囲の評判も「ばくち好き」で一致していますが、大嶽親方が博打好きだという噂は流れていません。おそらく琴光喜をかばっているのではないかと思います。
読売新聞には大嶽親方の自白に沿った記事が出ています。

 琴光喜の賭け金が1回あたり1万〜5万円だったのに対し、大嶽親方は20万円から多い時は50万円とエスカレート。大嶽親方は手持ちの資金がないにもかかわらず、琴光喜に借金して賭博を続け、大関が賭けたお金の大半は、実際は大嶽親方から立て替えを依頼されたのものだったことも明かされた。2人の間の金の貸し借りはルーズで、借用書なども一切なかったという。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100617-861507/news/20100628-OYT1T01025.htm

この記事によると、二人の間で何があったかについてどうやら何も証拠がないのです。おそらく、琴光喜にいくら立て替えたのか聞いても答えられないでしょう。どんなに信頼関係があったとしても借用書や記録もないのに数千万円もお金を立て替えるなどあり得ません。


こうなってくると、もはや「どうでもいい」とは言っていられなくなります。真実と異なる形で決着が図られることはあってはなりません。真実に反するのであれば、それは悪としか言いようがありません。また、力士や親方だからといって、特別重たい処分が科せられるというのも納得できるものではありません。フェアな解決がなければどんなに重たい処分を科したとしても問題は解決しません。


博打は証拠が残りません。そのため基本的に現行犯でなければ立件しないのが警察実務です。自供のみで処罰することは、かばい合いや引っ張り込みの恐れがあり、危険です。一部マスコミと国民がヒステリックに騒いでいるだけで、客観的に犯罪として裁くに足りる証拠はありません。
野球賭博は確かに犯罪です。自白もあります。しかし、自白以外の客観的な証拠はありません。憲法38条3項には「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」と定められています。現時点で事件化するのは非常に厳しいのです。


さらに、一般社会において単純賭博罪程度で懲戒解雇になるケースは極めて稀です。たいてい逮捕もされず罰金刑程度なので、会社にばれずに済むのです。会社にばれても会社に実質的な被害はないので懲戒解雇は難しいでしょう。たまたま力士や親方だったため、ここまで厳しい処分が言われていますが、裁判をすれば違法と判断される可能性も否定できません。
そして、今回の事件は大嶽親方が自ら警察に相談して発覚したことを忘れてはなりません。密行性の高い賭博という罪を「自首」したのですから情状酌量の余地が大きい事件なのです。琴光喜は愚かとしか言いようがありませんが、恐喝の被害者でもあります。恐喝被害にあった者が警察に申告してすべてを失うという結果が生じるというのでは、今後、賭博から足を洗いたいと思う人が警察に相談できなくなってしまいます。今後の影響を考えるとおかしな前例は残すべきではありません。


野球賭博で悪いのは胴元であってお客ではありません。胴元さえいなくなれば、野球賭博はなくなります。未だ胴元が誰なのかもわからない段階でお客だけ重たい処分をするというのは間違っています。マスコミの皆様には冷静になって法律に基づいて考えていただきたいと思います。
そして、未だ警察の捜査が終わっていない段階で処分するのは早すぎます。人間の一生にかかわる重大な問題です。強制捜査権のない内部調査などあてになりません。警察の処分を待ってから処分していただきたいと思います。